剣道への情熱だけは突出している、けれどもそれ以外の面に関してはまるで平凡で目立たない少年を。今朝、彼女は実際に悟朗の無事を目にしたわけではない。だが、ここにいれば無事生還した彼を見つけることができるだろう。そう思って道場の中に目をやると、その前に、最近よく目にするようになった大柄な男の姿が彼女の目に留まった。どこでどう調達したのか、剣道着を着ている。
かなりやる気のようである。剣道着は大方、神矢老人が持っている予備の内から拝借したのだろうが、それでもよく彼の身体に合ったサイズがあったものだ。しかし先に相手を見つけたのは、どうやら男の方だったらしい。彼女が道場の全体を軽く見渡している時点で、彼の低い声が聞こえてきた。
剣の道も実に奥深いものがあるだろうから、と武道を嗜む人間らしい感想を続けて、彼が返事を返してきた。彼女が生返事で周囲をまだ見回していることに気づいたのだろう。顔見知りの魔力持ちの門下生に目礼しながら、彼女は彼へと返事を返す。